セキュリティ人材不足に対する育成・採用・アウトソースのポイント

サイバーセキュリティの重要性が増す一方で、国内ではセキュリティ専門人材の不足が深刻な課題となっています。特に中小企業では、専任のセキュリティ担当者を確保することが難しく、サイバー攻撃のリスクが高まっています。企業のデジタル化が進む中で、適切なセキュリティ対策が取られないままシステムが運用されることは、重大なインシデントの引き金となる可能性が高くなります。本コラムでは、主に中小企業向けにセキュリティ専門人材を育成・採用・アウトソーシングする際のポイントを解説します。
目次
中小企業におけるセキュリティ専門人材確保の困難さ
中小企業は大企業と比較して予算が限られているため、高度なスキルを持つ専門家を雇用することが難しくなります。特に、地方の中小企業では、IT分野の人材自体が不足しており、適切なリソースを確保することが困難な現状があります。また、既存のIT担当者にセキュリティ業務を兼任させるケースも多いですが、専門的な知識が必要なため、十分な対策が取れないことも少なくありません。こうした背景から、企業は育成や外部リソースの活用を積極的に検討する必要があります。
自社で育成するか?外部に頼るか?人材確保のポイント
自社育成のポイント
企業がセキュリティ人材を確保する方法として、自社での育成は有力な選択肢の一つです。新たに専門家を採用するのではなく、既存の従業員を育成することで、組織の文化や事業戦略に即したセキュリティ対策を推進できます。しかし、その一方で育成には時間とコストがかかり、十分なスキルを持った指導者が必要となります。また、育成した人材が一定の経験を積んだ後に転職してしまうリスクも考慮しなければなりません。メリットとデメリットを整理したもの次のとおりです。
メリット
- 企業文化に適したセキュリティ意識を根付かせやすい
- 長期的な視点でコストを抑えながら専門家を確保できる
- 企業の事業戦略に即したセキュリティ対策を推進しやすい
デメリット
- 育成には時間とコストがかかる
- 専門知識を持った指導者が必要
- 人材がスキルを習得した後、転職してしまうリスクがある
採用による確保のポイント
新たに専門家を採用する場合、競争が激しく、給与水準が高いため中小企業にとっては負担が大きくなります。さらに、即戦力となる人材の確保は難しく、育成を並行して行う必要があります。また、IT人材市場は需要が高まり続けており、求職者の選択肢も増えているため、中小企業が優秀な人材を引き付けるには、働きやすい環境の提供やスキルアップの機会を提示する必要があります。
採用競争が激化する中で、企業が魅力的な職場環境を整備することが重要になります。例えば、リモートワークの導入や柔軟な勤務体制の整備、福利厚生の充実などが求職者の関心を引くポイントになります。また、専門的なスキルを持つ人材のキャリアアップを支援することで、長期的な雇用の維持につなげることができます。
さらに、採用にかかるコストは給与だけでなく、採用活動自体にも負担がかかります。求人広告費や採用エージェントの手数料、面接やトレーニングの時間的コストを考慮すると、中小企業にとっては大きな負担となることがあります。こうした事情を踏まえると、企業独自の育成プログラムを整備し、既存の従業員を戦力化する方が、長期的にはコストを抑えつつ組織の強化につながる可能性があります。
アウトソーシング活用のポイント
外部の専門家やセキュリティサービスを活用することで、自社のリソースを最適化しながらセキュリティ対策を強化できます。ただし、パートナーの選定や契約内容の確認が重要になります。特に、委託範囲を明確にし、自社のニーズに適したサービスを選択することが求められます。
アウトソーシングのメリットとして、専門的なスキルを持つ人材を即時に活用できる点が挙げられます。例えば、マネージドセキュリティサービスプロバイダ(MSSP)を利用することで、24時間365日の監視体制を構築し、迅速な対応を可能にすることができます。また、クラウド環境のセキュリティ対策やインシデント対応を専門の外部企業に委託することで、社内の負担を軽減しつつ、高度な防御策を確保できます。
しかし、外部に依存しすぎると、自社のセキュリティスキルが向上しにくくなるリスクもあります。自社の情報資産を適切に守るためには、アウトソーシング先との適切な連携が不可欠です。定期的な評価や契約内容の見直しを行い、自社のセキュリティポリシーに合った形で外部リソースを活用することが重要です。
また、コスト面でも注意が必要です。アウトソーシングは短期的にはコスト削減につながることが多いですが、長期的に見た場合、サービス契約の更新費用や追加オプションの料金がかさむ可能性があります。そのため、費用対効果を慎重に検討し、必要な範囲のみを外部に委託することが望ましいでしょう。
企業によっては、完全なアウトソーシングではなく、一部の業務のみを外部委託し、内部のセキュリティ人材と協力しながら運用する「ハイブリッド型」の運用方法を採用することも考えられます。これにより、社内のセキュリティスキルを維持しながら、必要な専門知識を外部から補完することが可能になります。
中小企業におけるセキュリティ専門人材確保・活用の成功事例
自社育成で成功した企業のケース
ある中小企業では、即戦力となるセキュリティ人材を確保するために、中途採用を積極的に活用しました。特に、セキュリティ関連の資格や実務経験を持つ専門家をターゲットにし、競争力のある待遇や柔軟な働き方を提供することで、優秀な人材の獲得に成功しました。また、採用後も継続的な研修とキャリアパスの明確化を行い、定着率を高める工夫を行いました。この結果、組織全体のセキュリティ意識が向上し、インシデント対応のスピードと精度が向上しました。
アウトソーシングで成功した企業のケース
ある中小企業では、MSSPと契約し、24時間365日のセキュリティ監視体制を構築しました。これにより、社内リソースを圧迫せずに高度なセキュリティ対策を実現し、インシデント対応の迅速化にもつながりました。
まとめ
セキュリティ人材の確保は中小企業にとって大きな課題ですが、育成・採用・アウトソーシングを適切に組み合わせることで、効果的な対策を講じることが可能です。特に、育成とアウトソーシングのバランスを最適化することで、コストを抑えながら強固なセキュリティ体制を構築することができます。
企業ごとに最適な戦略は異なりますが、まずは自社のセキュリティリスクを把握し、必要なスキルや対応策を明確にすることが重要です。さらに、セキュリティ教育を徹底し、従業員全体の意識を高めることも、インシデントを未然に防ぐ鍵となります。
また、急速に進化するサイバー攻撃に対応するためには、定期的なセキュリティ診断や最新技術の導入が不可欠です。外部の専門家と連携しながら、継続的にセキュリティ対策を見直すことで、企業の安全性を確保し、競争力を維持することができます。
今後も最新のセキュリティ動向を注視しながら、柔軟な対応を心がけ、自社にとって最適な人材確保の方法を模索していくことが求められます。