サイバーレジリエンスとは?中小企業に求められる事業継続能力

サイバーレジリエンスとは?中小企業に求められる事業継続能力
2024.7.8

近年、大企業と比べてセキュリティ対策が手薄な中小企業を狙ったサイバー攻撃が増加しており、サイバー攻撃が特別なことではなく、日常的な脅威となっています。しかし、どんなに対策を講じても、サイバー攻撃を100%防ぐことは不可能です。技術の進歩とともに攻撃手法も日々進化し、新たな脆弱性が次々と発見される中で、完璧な防御を維持し続けることは、大企業でさえ困難を極めています。
そこで近年、セキュリティ専門家の間で注目を集めているのが「サイバーレジリエンス」という概念です。サイバーレジリエンスとは、攻撃を受けることを前提とした上で、いかに被害を最小限に抑え、迅速に回復するかという能力を指します。言わば、デジタル時代における組織の「しなやかさ」と「強靭さ」を兼ね備えた状態を目指すものです。

本稿では、このサイバーレジリエンスについて、その重要性と実践方法を、特に中小企業の視点から探っていきます。

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目次

サイバーレジリエンスとは

NISTによる定義

NIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)によると、サイバーレジリエンスとは

「予期せぬ条件、ストレス、または攻撃の下でも、重要な機能を継続して提供する、あるいは迅速に復旧させる能力」

と定義されています。
NISTはさらに、サイバーレジリエンスの主要な特徴として以下の点を挙げています。

1. 予期:潜在的な脅威や変化を予測し、準備する能力
2. 耐性:攻撃や障害に耐える能力
3. 適応:変化する環境や新たな脅威に対応して、システムや運用を調整する能力
4. 回復:攻撃や障害から迅速に立ち直り、通常の運用状態に戻る能力

NISTの定義によれば、サイバーレジリエンスは単なる防御や回復以上の概念であり、組織やシステムが常に変化する脅威環境に適応し、継続的に機能を維持する能力を指します。これは、現代の複雑で動的なサイバー環境において、組織が生存し続けるために不可欠な能力と言えます。 この概念は、中小企業を含むあらゆる規模の組織に適用可能であり、各組織の状況に応じて実践的な対策を講じることが重要です。

なぜサイバーレジリエンスに注目が集まっているのか

サイバー脅威の進化と複雑化

サイバー脅威は日々進化し、その複雑さを増しています。国家支援型のハッカー集団による高度な持続的脅威(APT)や、データ暗号化に加えて情報窃取と公開脅迫を組み合わせた新型ランサムウェアなど、攻撃手法は高度化の一途をたどっています。さらに、AIや機械学習を活用した攻撃の出現や、IoTデバイスを標的とした新たな脅威、サプライチェーンを経由した間接的な攻撃など、従来の防御策では対応が困難な脅威が次々と現れています。この状況下では、静的で単一の防御策に頼るのではなく、常に変化し適応できる柔軟なセキュリティ体制が不可欠となっています。

デジタル依存度の増加

企業や社会全体のデジタル化が急速に進展し、あらゆる分野でITシステムへの依存度が高まっています。クラウドサービスの普及により、多くのデータやアプリケーションがクラウド上で管理されるようになり、製造業や農業などの従来のIT分野以外でもIoTデバイスの活用が進んでいます。さらに、多くの企業がDXを推進し、ITシステムがビジネスの中核を担うようになっています。銀行取引から行政サービスまで、様々なサービスがオンライン化される中、サイバーセキュリティの重要性は飛躍的に高まっており、サイバー攻撃が与える影響はより直接的かつ深刻になっています。

防御中心のアプローチの限界

従来の「防御」中心のセキュリティアプローチでは、現代の複雑なサイバー脅威に十分に対応できなくなっています。多段階の攻撃や正規ツールを悪用する攻撃など、従来の防御策では検知が困難な手法が増加しています。また、未知の脆弱性を狙ったゼロデイ攻撃に対しては、既存の防御策が無力である場合が多々あります。さらに、内部脅威や人間の心理を悪用したフィッシング攻撃など、技術的対策だけでは防ぎきれない脅威も増加しています。これらの理由から、攻撃を完全に防ぐことは不可能であるという認識が広まり、攻撃を受けることを前提とした新たなアプローチ、すなわちサイバーレジリエンスの重要性が認識されるようになっています。

コスト効率の観点

サイバーレジリエンスのアプローチは、長期的に見てコスト効率が高いと認識されています。サイバー攻撃の高度化に伴い、完全な防御を目指すとコストが際限なく上昇する一方で、適切な対応計画を事前に準備することで、インシデント発生時の混乱とコストを大幅に削減できます。また、迅速な回復能力を持つことで、サイバー攻撃による事業中断の期間と影響を最小限に抑えられ、結果として経済的損失を軽減できます。さらに、サイバーレジリエンス能力が高い組織は、サイバー保険の保険料が軽減される可能性があり、適切な対応と迅速な回復によって評判リスクも最小限に抑えることができます。これらの要因により、組織はサイバーレジリエンスの構築が長期的には総合的なコスト削減と価値創出につながると考えるようになっています。

中小企業とサイバーレジリエンス

サイバーレジリエンスが中小企業に必要な理由

中小企業でもデジタル化が進み、業務のほとんどがコンピューターやインターネットに依存しています。一方で、専門的なIT部門を持つ余裕がない企業も多く、サイバー攻撃に対して脆弱です。攻撃を受けた際の影響を最小限に抑え、迅速に回復する能力は、中小企業の存続に関わる重要な要素となっています。

中小企業でもできるサイバーレジリエンス

レジリエンスを高める施策は数多くありますが、限られたリソースで対応するには以下の観点から始めることをお勧めします

リスクの把握と評価

中小企業にとって、サイバーレジリエンスの基盤となるのがリスクの把握と評価です。自社の重要な情報資産を特定し、それらに対する潜在的な脅威を分析することから始めます。顧客データ、財務情報、知的財産などが主な保護対象となるでしょう。また、システムやプロセスの脆弱性を評価し、攻撃者にとって魅力的なターゲットとなり得る箇所を特定します。この過程で、外部の専門家の助言を得ることも有効です。リスク評価は一度限りではなく、定期的に見直すことで、変化する脅威環境に適応し続けることが重要です。

基本的なセキュリティ対策の実施

中小企業のサイバーレジリエンスにおいて、コスト効率の高い基本的セキュリティ対策の実施は不可欠です。強力なパスワードポリシーの導入から始め、全てのソフトウェアとシステムを最新の状態に保つための定期的な更新を行います。信頼性の高いファイアウォールとアンチウイルスソフトを導入し、常に最新の脅威に対応できるよう設定します。また、全従業員を対象としたセキュリティ意識向上トレーニングを定期的に実施し、人的要因によるリスクを軽減します。これらの基本的対策を確実に実施することで、多くの一般的な攻撃を防ぐことができます。

データバックアップと復旧計画

データバックアップと復旧計画は、中小企業のサイバーレジリエンスの要となります。重要なデータを定期的にバックアップし、オフサイトや暗号化されたクラウドストレージに保管することで、ランサムウェア攻撃などの脅威から保護します。バックアップは自動化し、定期的に整合性をチェックすることが重要です。また、バックアップからのデータ復元手順を確立し、定期的にテストを行います。復旧計画には、システムの優先順位付けや、復旧時間目標の設定も含めます。これにより、インシデント発生時でも迅速にビジネスを再開できる体制を整えることができます。

インシデント対応計画の策定

中小企業にとって、サイバーインシデントへの効果的な対応は事業継続の鍵となります。インシデント対応計画では、初動対応から復旧までの手順を明確に定義します。計画には、インシデントの検知方法、対応チームの役割と責任、外部関係者(法執行機関、顧客、メディアなど)との連絡手順を含めます。また、被害の最小化と封じ込めのための具体的な手順、そして業務継続のための代替措置も盛り込みます。この計画は定期的に見直し、模擬訓練を通じて実効性を確認することが重要です。適切な計画と訓練により、実際のインシデント時の混乱を最小限に抑えることができます。

継続的なモニタリングと改善

サイバーセキュリティの分野では、脅威環境が常に変化しているため、中小企業においても継続的なモニタリングと改善が不可欠です。ネットワークトラフィック、ログ、ユーザーアクティビティを常時監視し、異常を早期に検知する体制を整えます。また、新たな脅威や脆弱性に関する情報を定期的に収集し、自社のセキュリティ対策に反映させます。セキュリティ対策の有効性を定期的に評価し、必要に応じて改善や更新を行います。この継続的な改善サイクルにより、常に変化する脅威に対応し、組織のサイバーレジリエンスを維持・向上させることができます。

ひとり情シスとサイバーレジリエンス

近年、 IT人材不足から中小企業を中心に「ひとり情シス」が増加しています。ひとり情シスとは、1人で企業のIT環境全般を管理する役割を指します。システムの導入から運用、セキュリティ対策まで、幅広い業務を1人でこなす必要があり、その負担は計り知れません。
ALSOKではひとり情シスの負担を軽減し、サイバーレジリエンスを高めるソリューション、ホームページ改ざん検知・自動復旧とEDRを提供しています。どちらもサイバー攻撃に対する自動復旧機能を備えており、サイバーレジリエンスを高めるためには最適なソリューションです。

まとめ

サイバーレジリエンスは、デジタル時代における組織の生存と成長に不可欠な能力です。攻撃を完全に防ぐことは困難ですが、レジリエンスを高めることで、攻撃の影響を最小限に抑え、迅速に回復することができます。サイバーレジリエンスの構築は一朝一夕にはできません。経営層のリーダーシップのもと、全社を挙げて継続的に取り組むことが重要です。

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