シャドーAIとは?企業が直面するリスクと効果的な対策を解説

シャドーAIとは?企業が直面するリスクと効果的な対策を解説
2025.09.01

近年、生成AIの急速な普及により、多くの企業でChatGPTをはじめとするAIツールが業務に活用されています。しかし、その便利さの裏で「シャドーAI」という新たなリスクが企業を脅かしています。

シャドーAIは、従来のシャドーITに続く現代的な課題として注目されており、適切な理解と対策が急務となっています。本記事では、シャドーAIの基本概念から具体的なリスク、そして効果的な対策まで、企業が押さえるべきポイントを解説いたします。

セキュリティ無料相談

目次

シャドーAIとは

シャドーAIとは、企業や組織の管理部門が把握・承認していないAIツールやサービスを、従業員が独自に業務で利用することを指します。従業員が勝手に利用するといったような、リスクある行為も増えてしまっています。

具体的には、従業員が個人のアカウントでChatGPTやGoogle Bardなどの無料版生成AIサービスにアクセスし、業務に関する情報を入力して作業を効率化させる行為が該当します。一見すると生産性向上に寄与する行為に見えますが、企業の情報管理という観点では大きな問題となります。

シャドーITとの違い

従来の「シャドーIT」は、従業員が会社の許可なく個人のデバイスやクラウドサービスを業務に使用することでした。企業における無許可技術利用という共通点を持ち、シャドーAIはシャドーITの一種ですが、シャドーAIは、AI技術特有の特徴により、より複雑で深刻な問題を引き起こす可能性があります。

AIツールの場合、入力されたデータが学習に使用される可能性や、生成された内容の著作権問題、さらには意図しない情報漏えいなど、従来のITツールとは異なる特殊なリスクが存在します。

シャドーAIが生まれる背景

シャドーAIが生まれる背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。

技術の急速な普及と利便性の実感

生成AIツールが急激に身近になり、誰でも簡単にアクセスできるようになったことが最大の要因です。ChatGPTやClaude等のAIは無料版でも高性能で、文書作成、翻訳、データ分析などの業務を劇的に効率化できます。従業員は日常的にこれらのツールの威力を実感し、業務でも使いたくなります。

組織の対応の遅れ

多くの企業でAIガバナンス体制の整備が追いついていません。IT部門や経営陣がAI導入の検討中である間に、現場では「待てない」従業員が独自に使い始めてしまいます。特に新しい技術への理解不足により、適切なルールや承認プロセスの確立が遅れがちです。

業務効率への強いニーズ

競争激化により、従業員は常に生産性向上を求められています。AIを使えば数時間かかる作業が数分で完了するため、公式な許可を待つより先に使い始める傾向があります。

リスク認識の不足

多くの従業員がAI利用のセキュリティリスクや法的影響を十分理解していません。「便利だから使う」という感覚で、データ漏えいやコンプライアンス違反の可能性を軽視してしまいます。

シャドーAIがもたらすリスク

情報漏えいリスク

最も深刻なリスクは、機密情報の意図しない流出です。約1割の方は「機密情報だった」とわかっていて生成AIに情報を入力したことも示されており、実態の深刻さが明らかになっています。

従業員がAIツールに顧客情報、社内資料、開発中のプロダクト情報などを入力した場合、これらの情報がサービス提供者のサーバーに保存され、他の利用者への回答に使用される可能性があります。特に無料版のAIサービスでは、利用規約でデータの学習利用が明記されているケースが多く見られます。

コンプライアンス違反

業界特有の規制や法的要件への違反リスクも無視できません。金融業界の個人情報保護法、医療業界のHIPAA規制、製造業の営業秘密保護など、各業界には厳格なデータ管理規則が存在します。

シャドーAIの利用により、これらの規制に抵触し、企業が法的責任を問われる可能性があります。

品質とハルシネーションの問題

AIが生成する内容には「ハルシネーション」と呼ばれる、事実とは異なる情報を提示する現象があります。従業員がAIの出力をそのまま業務に使用した場合、顧客への誤った情報提供や、間違った判断による業務ミスが発生するリスクがあります。

知的財産権の侵害

AIが生成したコンテンツが既存の著作物と類似している場合、意図しない著作権侵害が発生する可能性があります。また、企業の重要な知的財産がAIの学習データに含まれることで、競合他社に情報が流出するリスクも考えられます。

シャドーAI対策

ガバナンス体制の構築

効果的なシャドーAI対策の第一歩は、明確なガバナンス体制の確立です。AI利用に関するポリシーを策定し、利用可能なツール、禁止事項、承認プロセスを明文化する必要があります。

ポリシーには、どのようなデータをAIツールに入力してよいか、どの程度までAIの出力を業務に利用できるか、問題が発生した際の報告体制などを含めることが重要です。

従業員教育の実施

技術的な対策と同等に重要なのが、従業員への教育です。シャドーAIがもたらす具体的なリスク(情報漏えい、著作権侵害、ハルシネーションなど)について、具体的な事例を交えながら従業員に教育・啓発を行います。

定期的な研修を通じて、AIリテラシーの向上を図り、適切な利用方法を浸透させることが必要です。単に禁止するのではなく、なぜリスクがあるのか、どのように利用すべきかを理解してもらうことが重要です。

社内用ローカルAIの構築

シャドーAI対策として企業ローカルAIの構築は有効な手段です。

ローカルAIの主要メリットは、データが社内に留まることによる機密保持、利用状況の完全な可視化と監査、企業ポリシーに沿った利用制限の実装です。また、業務特化型モデルのカスタマイズも可能となります。

ただし、構築時はOWASP Top10などのセキュリティフレームワークに準拠した設計が不可欠です。インジェクション攻撃対策、適切な認証・認可機能、データ暗号化、ログ監視機能を実装し、定期的な脆弱性評価を実施することで、安全で統制の取れたAI活用環境を実現できます。

技術的対策:Webフィルタリングの活用

Webフィルタリングとは

Webフィルタリングは、従業員のインターネットアクセスを制御し、特定のWebサイトやサービスへのアクセスを制限する技術です。シャドーAI対策においては、未承認のAIサービスへのアクセスをブロックする重要な技術的手段となります。

シャドーAI対策におけるWebフィルタリングの役割

現代のWebフィルタリングソリューションでは、単純なURL単位のブロックだけでなく、コンテンツの内容やアプリケーションの種類に基づいた制御が可能です。これにより、AIサービス全般をカテゴリとして制限したり、特定の条件下でのみアクセスを許可したりできます。

Webフィルタリングの設定により、従業員によるクラウドストレージへの不正なアップロードやSNSへの投稿などを制限することで、企業内部からのインターネットを経由した情報漏えいを未然に防げる可能性が高まります。

実装時の考慮事項

Webフィルタリングを実装する際は、業務への影響を最小限に抑えながら、効果的な制御を実現することが重要です。完全にブロックするのではなく、警告表示による注意喚起や、特定の部署・役職のみに利用を限定するなど、柔軟な運用が求められます。

また、新しいAIサービスが次々と登場するため、フィルタリングルールの定期的な見直しと更新が必要です。

ALSOKではWebフィルタリング機能を備えたセキュリティ製品を取り扱っております。

モニタリングと検出

ログ監視による実態把握

シャドーAIの利用実態を把握するため、ネットワークログやプロキシログの分析が重要です。どの従業員がいつ、どのAIサービスにアクセスしているかを継続的に監視することで、リスクの高い利用パターンを早期に発見できます。

異常検知システムの活用

機械学習を活用した異常検知システムにより、通常とは異なるデータ送信パターンや、大量のファイルアップロードなどを自動的に検出できます。これにより、機密情報の意図しない流出を早期に発見し、対処することが可能になります。

継続的な改善

定期的な見直し

AI技術の進歩は非常に速く、新しいサービスや機能が次々と登場しています。そのため、シャドーAI対策も定期的に見直し、最新の脅威や技術動向に対応したポリシー・システムの更新が必要です。

フィードバックの収集

実際にAIを利用する従業員からのフィードバックを積極的に収集し、対策の効果性や業務への影響を評価します。これにより、より実用的で効果的な対策に改善していくことができます。

まとめ

シャドーAIは、現代の企業が直面する新たなセキュリティ課題です。生成AIの便利さと普及により、従業員による非公式な利用は今後も増加すると予想されます。

効果的な対策には、技術的な制御だけでなく、明確なガバナンス体制、従業員教育、代替ソリューションの提供、そして組織文化の改革が必要です。特に、Webフィルタリングをはじめとする技術的対策は、シャドーAI利用を制御する重要な手段となります。

重要なことは、単純にAI利用を禁止するのではなく、安全で効果的な活用方法を提供することです。従業員の生産性向上ニーズに応えながら、企業の情報資産を適切に保護するバランスの取れた対策を実施することで、AI時代における競争優位を確立することができるでしょう。

継続的な改善と最新動向への対応により、安全で効果的なAI活用環境の構築を目指すことが重要です。

セキュリティ無料相談