SOARとは|人材不足で必要になる効率的なセキュリティ運用
現代のデジタル社会において、サイバーセキュリティの重要性は日々高まっています。企業や組織は、増加の一途をたどるサイバー攻撃から自らを守るため、より高度で効率的なセキュリティ対策を求められています。そんな中、注目を集めているのが「SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)」です。
SOARは、セキュリティオーケストレーション、自動化、レスポンスの頭文字を取った概念で、サイバーセキュリティ運用を効率化し、インシデント対応を迅速化するための包括的なアプローチです。本稿では、SOARの概念、その重要性、導入のメリッについて詳しく解説していきます。
目次
SOARとは
SOARは、Security Orchestration, Automation and Response(セキュリティオーケストレーション、自動化、対応)の略称です。
SOARは、以下の3つの主要な要素から構成されています
Security Orchestration(セキュリティオーケストレーション)
セキュリティオーケストレーションは、組織内の複数のセキュリティツールや技術を統合し、協調して動作させる過程を指します。これは、異なるベンダーの製品や独立したシステム間での情報共有と連携を可能にします。具体的には、複数のセキュリティソリューション(SIEM、EDR、ファイアウォールなど)からのデータ統合、異なるシステム間での情報共有とデータの相関分析、統一されたインターフェースを通じた一元的な管理と操作などの機能を提供します。オーケストレーションにより、セキュリティチームは複数のツールを個別に操作する必要がなくなり、効率的な脅威の検知と対応が可能になります。また、各ツールの強みを組み合わせることで、より包括的な対策を実現できます。
Automation(自動化)
自動化は、セキュリティ運用におけるルーチンタスクや反復的なプロセスを、人間の介入なしに実行する機能です。これにより、セキュリティチームの作業負荷を軽減し、人為的ミスを減らすことができます。自動化の対象となる主な領域には、アラートの優先順位付け、脅威情報の収集と統合、初期調査(ログ収集、IOC検索など)、軽微なインシデントに対する標準的な対応(IPブロック、アカウントロックなど)があります。自動化されたワークフローは、事前に定義されたルールやプレイブックに基づいて実行されます。これにより、24時間365日の監視と即時対応が可能になり、インシデント対応時間の大幅な短縮につながります。
Response(対応)
Responseは、検知された脅威やインシデントに対して適切な対策を講じるプロセスを指します。SOARシステムは、自動化された対応と人間の判断を組み合わせて、効果的なインシデント管理を実現します。主な対応プロセスには、インシデントの分類と重要度評価、関連する利害関係者への通知とエスカレーション、脅威の封じ込めと排除(感染端末の隔離、マルウェアの削除など)、システムやデータの復旧、フォレンジック分析と再発防止策の策定が含まれます。SOARは、過去の対応事例や最新の脅威情報を活用して、状況に応じた最適な対応策を提案します。また、対応プロセス全体を記録し、後の分析やレポート作成に活用することができます。
SOARは、これらの要素を統合することで、組織のセキュリティ運用を最適化し、サイバー脅威に対する耐性を高めることを目的としています。 海外、特に北米や西ヨーロッパの大企業では、SOARの導入が急速に進んでいます。業界別では、金融サービス、医療、政府機関など、セキュリティリスクが高く、規制要件の厳しい業界での採用が特に進んでいます。
SOARが注目される背景
SOARが注目される背景には、以下のようなサイバーセキュリティ環境の変化があります
サイバー攻撃の高度化と増加
サイバー攻撃は年々巧妙化し、その数も増加の一途をたどっています。従来の防御手法だけでは対応が困難になってきています。
セキュリティ人材の不足
世界的にサイバーセキュリティの専門家が不足しており、多くの組織が人材確保に苦慮しています。
セキュリティツールの増加と複雑化
組織が導入するセキュリティツールの数が増え、それらの管理・運用が複雑化しています。
インシデント対応の迅速化ニーズ
サイバー攻撃による被害を最小限に抑えるためには、インシデントの早期発見と迅速な対応が不可欠です。
コンプライアンス要件の厳格化
データ保護やプライバシーに関する法規制が強化され、組織はより厳格なセキュリティ管理を求められています。
このような状況下で、SOARは効率的かつ効果的なセキュリティ運用を実現する解決策として重要性を増しています。
SOAR導入のメリット
インシデント対応の効率化と迅速化
SOARは、セキュリティインシデントの検知から対応、復旧までのプロセスを自動化することで、対応時間を大幅に短縮します。従来の手動プロセスでは、アラートの確認、情報収集、分析、対応策の決定に多くの時間を要していましたが、SOARはこれらのタスクを自動的に実行します。例えば、不審なIPアドレスからのアクセスを検知した場合、SOARは関連する脅威情報を自動的に収集し、リスク評価を行い、必要に応じてファイアウォールの設定変更やアカウントのロックなどの対応を即座に実施できます。これにより、セキュリティチームは重要度の高いインシデントに集中できるようになり、組織全体のセキュリティ態勢が強化されます。
セキュリティオペレーションの統合と可視化
SOARプラットフォームは、組織内の様々なセキュリティツールやシステムを統合し、一元的な管理を可能にします。SIEMやEDR、ファイアウォール、IDSなど、異なるセキュリティソリューションからのデータを集約し、相関分析を行うことで、より包括的な脅威の検知と分析が可能になります。また、ダッシュボードやレポート機能により、セキュリティ状況の可視化が促進され、経営層や他部門とのコミュニケーションが改善されます。例えば、インシデントの傾向分析や対応時間の統計など、KPIを視覚的に表示することで、セキュリティ投資の効果や課題を明確に示すことができます。
知識の蓄積とセキュリティ対応の標準化
SOARは、過去のインシデント対応の記録や、効果的だった対策をナレッジベースとして蓄積します。このナレッジは、プレイブックと呼ばれる標準化された対応手順として整理され、新たなインシデントに対して迅速かつ一貫した対応を可能にします。例えば、ランサムウェア攻撃に対するプレイブックには、感染端末の隔離、バックアップからの復旧、関連するIOCの検索など、一連の手順が定義されます。これにより、経験の浅い人員でも適切な対応が可能になり、人材育成やナレッジ継承の面でも大きなメリットがあります。また、規制対応や監査の際にも、標準化された対応プロセスを示すことで、組織のセキュリティガバナンスの成熟度を証明することができます。
これらのメリットにより、SOARの導入は組織のセキュリティ対応能力を飛躍的に向上させ、増加する脅威に対して効果的に対処する基盤となります。
SOARとSIEMの違い
SOARと比較されがちなものにSIEM(Security Information and Event Management)があります。どちらもセキュリティ運用において重要な役割を果たしますが、その焦点と機能には明確な違いがあります。
主な目的 | インシデント対応の自動化とオーケストレーションに焦点を当て、検出された脅威への迅速かつ効率的な対応を目的とする | セキュリティイベントとログの収集、分析、相関付けに重点を置き、脅威の検出と可視化を目的とする |
データの処理 | SIEMを含む様々なソースからのアラートやデータを活用し、対応のためのワークフローを実行 | 大量のログデータを収集し、リアルタイムで分析 |
自動化の対象 | インシデント対応プロセス全体 | 主にデータの収集と分析 |
SOAR導入のハードル
SOARの導入には多くのメリットがありますが、同時にいくつかの重要なハードルも存在します。
コスト
SOARプラットフォームの導入には、ソフトウェアライセンス費用だけでなく、設定や統合のための専門的なサービスが必要となる場合があり、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。
スキル
既存のセキュリティツールやITシステムとSOARプラットフォームを効果的に統合するには、高度な技術力と十分な時間が必要です。多くの組織では、これらのスキルを持つ人材の確保や育成が課題となっています。
組織内での理解
SOARの導入は、セキュリティ運用プロセスの大幅な変更を伴うため、組織全体での理解と協力が不可欠です。経営層を含んだ組織内での理解がないと、導入が失敗する危険性があります。
これらのハードルを考慮すると、特に中小企業や予算・リソースに制約のある組織にとって、フルスケールのSOAR導入は挑戦的な取り組みとなる可能性があります。
スモールスタートで始めるSOAR
前述のようなハードルに対しては、スモールスタートをお勧めします
単一ソリューションからの開始
フル機能のSOARプラットフォームではなく、特定のインシデントタイプに特化した自動化ソリューションから始めることを検討します。これにより、初期投資を抑えつつ、自動化の利点を体験できます。また、改めて確認すると、すでに導入しているEDRなどのセキュリティツールに、自動化機能を追加できる場合があるかもしれません。これは多くのセキュリティベンダーがSOARの概念を取り込み、既存製品に自動化機能を組み込みつつあるためです。
最初の自動化ソリューションでの成功を基に、徐々に対象範囲を拡大していくことが組織内の理解を得ることにも役立ちます。
ALSOKではランサムウェアに対して、自動でロールバックする機能を備えたEDR製品を取り扱っております。インシデント対応の自動化の一歩としてご検討ください。
クラウドベースのソリューション
オンプレミスの大規模なSOARプラットフォームではなく、クラウドベースの軽量なSOARソリューションを検討します。これにより、初期投資とメンテナンスの負担を軽減できます。
スキル開発の並行実施
自動化ソリューションの導入と並行して、チームメンバーのスキル開発を進めます。最初から完璧を求めて外部ベンダーに委託する必要はなく、将来的なSOARの本格導入に向けた準備を整えつつ長期的な目線でスキル開発をすることが有効です。
このようなスモールスタートアプローチを採用することで、組織は自動化とオーケストレーションの利点を段階的に享受しながら、SOARの全面的な導入に向けて着実に準備を進めることができます。また、このアプローチは、投資リスクを最小限に抑えつつ、組織のセキュリティ成熟度を段階的に向上させる効果的な方法となります。
SOARに関するQ&A
中小企業でもSOARは必要ですか?
企業規模に関わらず、SOARの導入は検討に値します。中小企業向けにはクラウドベースの軽量なSOARソリューションも登場しており、セキュリティリソースが限られている組織でも効果的に活用できます。重要なのは、自社のニーズと規模に合った適切なソリューションを選択することです。
SOARの導入によって、具体的にどのようなセキュリティ作業が改善されますか?
SOARの導入により、アラートの分類と優先順位付け、初期調査プロセス、軽微なインシデントへの対応、脅威インテリジェンスの収集と統合などが自動化されます。これにより、セキュリティチームは重要度の高いタスクに集中でき、インシデント対応時間の短縮や人為的ミスの削減が期待できます。
まとめ
SOARは、組織のセキュリティ運用を効率化し、サイバー脅威への対応力を大幅に向上させる強力なアプローチです。複雑化・高度化するサイバー攻撃、セキュリティ人材の不足、コンプライアンス要件の厳格化など、現代の組織が直面する様々な課題に対して、SOARは効果的な解決策となります。
しかし、多くのメリットをもたらすSOARですが、その導入には慎重な計画と準備が必要です。組織の現状を十分に分析し、明確な目標を設定した上で、段階的にSOARを導入していくことが成功の鍵となります。
また、SOARはあくまでもツールであり、それを効果的に活用するのは人間です。セキュリティチームのスキルアップや、組織全体のセキュリティ意識の向上と並行してSOARを導入することで、より大きな効果が期待できます。
サイバーセキュリティの課題は、技術的な側面だけでなく、人的要因や組織文化とも密接に関連しています。SOARの導入を通じて、組織全体のセキュリティレジリエンスを高め、デジタル時代のビジネスリスクに対する強固な防御線を構築することが、今後ますます重要になることが予想されます。