Webアクセシビリティとは?必要性や実践方法をわかりやすく解説

Webアクセシビリティとは?必要性や実践方法をわかりやすく解説
2024.6.27

インターネットが日常生活に不可欠となった現代社会。しかしながら、そのWebサイトやアプリは、すべての人が平等に利用できるものになっているでしょうか。Webアクセシビリティとは、障害の有無や年齢に関わらず、だれもがデジタル情報にアクセスし、サービスを利用できるようにする取組みです。 単なる技術的な課題ではなく、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)を実現するための重要な手段であり、企業の社会的責任としても注目されています。
本コラムでは、Webアクセシビリティの必要性や実践方法についてわかりやすく解説します。

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目次

Webアクセシビリティとは

Webアクセシビリティとは、障害の有無や年齢に関わらず、すべての人がWebサイトやWebアプリケーションを利用できるようにする考え方と実践のことです。これは単に特定のグループのためだけのものではなく、すべてのユーザーにとってより使いやすく、アクセスしやすいWebを実現することを目指しています。

Webアクセシビリティの重要性

社会的意義

Webアクセシビリティは、デジタル時代における情報へのアクセスの公平性を保証する上で極めて重要です。インターネットが日常生活に不可欠となった現代社会において、Webサイトやオンラインサービスへのアクセスが制限されることは、教育、就労、社会参加などの機会の損失につながります。

実際に、厚生労働省の調査においても身体障害者手帳の所持者が415.9万人(2022年12月1日時点)であると公表されており、Webアクセシビリティを通じてこうした人が不自由なくWebへアクセスできるような環境が求められています。

障害の種類別にみた身体障害者手帳所持者数

(出典:厚生労働省 令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果概要

ビジネス面でのメリット

Webアクセシビリティの向上は、ビジネスにとっても多くの利点をもたらします。まず、潜在的な顧客層を拡大することができます。高齢者や障害者を含むより多くのユーザーがサービスを利用できるようになれば、市場シェアの拡大につながります。また、アクセシビリティの配慮はユーザビリティの向上にも寄与し、すべてのユーザーにとって使いやすいサイトとなります。

Webアクセシビリティの主な対象者

Webアクセシビリティは、以下のような多様なユーザーを対象としています。

視覚障害者

全盲の方から弱視の方まで、視覚に障害のある方々です。スクリーンリーダーなどの支援技術を使用してWebを閲覧します。

聴覚障害者

聴覚に障害のある方々です。動画コンテンツの字幕や、音声情報の代替テキストが重要となります。

運動機能障害者

手や腕の動きに制限がある方々です。マウスの使用が困難な場合があるため、キーボードのみでの操作に対応する必要があります。

認知障害者

学習障害や注意欠陥障害など、情報処理に困難を抱える方々です。明確で簡潔な情報提示が重要です。

高齢者

加齢に伴い、視力や聴力、運動機能が低下した方々です。文字サイズの調整やコントラストの確保などが必要です。

Webアクセシビリティの基準と指針

WCAG (Web Content Accessibility Guidelines)

World Wide Web Consortium (W3C) が発行する国際的なガイドラインです。現在はWCAG 2.2が最新版で、知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢の4つの原則に基づいて、具体的な達成基準を提示しています。4つの原則の特徴は以下のとおりです。

1. 知覚可能

情報及びユーザインタフェース コンポーネントは、利用者が知覚できる方法で利用者に提示可能でなければならない。

  • ガイドライン 1.1 「テキストによる代替」
    すべての非テキストコンテンツには、大活字、点字、音声、シンボル、平易な言葉などの利用者が必要とする形式に変換できるように、テキストによる代替を提供すること。
  • ガイドライン 1.2 「時間依存メディア」
    時間依存メディア(音声または映像)には代替コンテンツを提供すること。
  • ガイドライン 1.3 「適応可能」
    情報、及び構造を損なうことなく、様々な方法 (例えば、よりシンプルなレイアウト) で提供できるようにコンテンツを制作すること。
  • ガイドライン 1.4 「判別可能」
    コンテンツを、利用者にとって見やすく、聞きやすいものにすること。これには、前景と背景を区別することも含む。

2. 操作可能

ユーザインタフェース コンポーネント及びナビゲーションは操作可能でなければならない。

  • ガイドライン 2.1 「キーボード操作可能」
    すべての機能をキーボードから利用できるようにすること。
  • ガイドライン 2.2 「十分な時間」
    利用者がコンテンツを読み、使用するために十分な時間を提供すること。
  • ガイドライン 2.3 「発作と身体的反応」
    発作や身体的反応を引き起こすようなコンテンツを設計しないこと。
  • ガイドライン 2.4 「ナビゲーション可能」
    利用者がナビゲートしたり、コンテンツを探し出したり、現在位置を確認したりすることを手助けする手段を提供すること。
  • ガイドライン 2.5 「入力モダリティ」
    利用者がキーボード以外の様々な入力を通じて機能を操作しやすくすること。

3. 理解可能

情報及びユーザインタフェースの操作は理解可能でなければならない。

  • ガイドライン 3.1 「読み取り可能」
    テキストコンテンツの読み取りと理解を可能にすること。
  • ガイドライン 3.2 「予測可能」
    ウェブページの表示や挙動を予測可能にすること。
  • ガイドライン 3.3 「入力支援」
    利用者の間違いを防ぎ、修正を支援すること。

4. 堅牢 (robust)

コンテンツは、支援技術を含む様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分に堅牢 (robust) でなければならない。

  • ガイドライン 4.1 「互換性」
    現在及び将来の、支援技術を含むユーザエージェントとの互換性を最大化すること。

(出典:W3C  Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2

JIS X 8341-3規格

国内におけるWebアクセシビリティの規格としてはJIS X 8341-3があります。この規格は、日本のWebコンテンツが高齢者や障害者を含むすべての人にとって使いやすくなるように設計されています。また、本規格は上述のWCAGに準拠しており、さらに日本の特有の要件や状況を考慮して作成されています。

各国の法規制

多くの国でWebアクセシビリティに関する法律が制定されています。例えば、アメリカの「ADA(Americans with Disabilities Act)」、EUの「EAA(European Accessibility Act)」、日本の障害者差別解消法などがあります。これらの法律は、公共機関のWebサイトだけでなく、民間企業のWebサイトにも適用されるケースが増えています。

日本の「障害者差別解消法」も2021年に法改正され、2024年4月1日から事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。さらに、2024年3月には、デジタル庁から「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」が公開され、事業者によるWebアクセシビリティの強化が期待されています。
なお、デジタル庁のガイドブックは、Webアクセシビリティへの基本から実践プロセスまで解説した大変わかりやすい内容になっているため、まだ読んでいない方は一度確認してみましょう。

(出典:内閣府  リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」

(出典:デジタル庁  ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック

Webアクセシビリティを実現するための具体的な方法

それではWebアクセシビリティを実現するためには具体的にどのような対応を行えばよいのでしょうか。具体的な例を紹介します。

代替テキストの提供

画像、動画、音声などの非テキストコンテンツに対して、その内容や機能を説明する代替テキストを提供します。これにより、スクリーンリーダーを使用するユーザーがコンテンツを理解できるようになります。

キーボード操作の対応

すべての機能をキーボードのみで操作できるようにします。これは、マウスの使用が困難なユーザーにとって重要な対応となります。

色のコントラスト

テキストと背景のコントラスト比を十分に確保します。WCAG 2.2では、通常のテキストで4.5:1以上、大きな文字で3:1以上のコントラスト比を推奨しています。

字幕と音声解説

動画コンテンツには字幕を付け、必要に応じて音声解説も提供します。これにより、聴覚障害者や視覚障害者もコンテンツを理解できるようになります。

わかりやすい文章と構造

明確で簡潔な文章を使用し、論理的な見出し構造を持たせます。これは認知障害のあるユーザーだけでなく、すべてのユーザーにとって有益です。

アクセシビリティテストと評価ツール

Webアクセシビリティの実装状況を評価するために、さまざまなツールが利用可能です。自動チェックツールとしては、WAVE、aXe、Lighthouseや総務省が提供するmiCheckerなどがあります。ただし、自動チェックだけでは不十分で、実際のユーザーによる手動テストも重要です。特に、スクリーンリーダーを使用したテストや、キーボードのみでの操作テストは欠かせません。

アクセシブルなウェブサイト設計のベストプラクティス

  • デザインの初期段階からアクセシビリティを考慮する
  • セマンティックなHTML構造を使用する
  • フォームにラベルを適切に関連付ける
  • 十分な文字サイズとコントラストを確保する
  • リンクテキストを明確にする(「ここをクリック」ではなく、目的を示す)
  • 適切な見出し構造を使用する
  • スキップリンクを提供し、メインコンテンツに直接アクセスできるようにする
  • SVGやアイコンフォントを使用する際は、適切な代替テキストを提供する
  • 動的なコンテンツの変更をスクリーンリーダーに通知する(ARIA ライブリージョンの使用)
  • レスポンシブデザインを採用し、様々なデバイスでの表示に対応する

Webアクセシビリティの将来展望

AI技術の活用

AI(人工知能)技術の発展は、Webアクセシビリティの分野に新たな可能性をもたらしています。例えば、機械学習を用いた自動画像認識技術により、より正確で文脈に即した代替テキストの生成が可能になるでしょう。また、自然言語処理技術を活用することで、複雑な文章を簡略化し、認知障害のあるユーザーにとってより理解しやすいコンテンツを提供できるようになるかもしれません。

ユニバーサルデザインの普及

Webアクセシビリティの考え方は、ユニバーサルデザインの概念とも密接に関連しています。今後は、特定のユーザー向けの「特別な」対応ではなく、最初から多様なユーザーを想定したデザインが主流になっていくと予想されます。これにより、アクセシビリティとユーザビリティが融合し、すべてのユーザーにとってより使いやすいWebが実現されるでしょう。

まとめ

Webアクセシビリティは、単なる技術的な課題ではなく、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)を実現するための重要な手段です。デジタル技術が社会のあらゆる側面に浸透する中、Webへのアクセスは基本的な権利となりつつあります。アクセシブルなWebを構築することは、情報やサービスへの平等なアクセスを保証し、すべての人々が社会に完全に参加できる環境を整えることにつながります。 障害の有無や年齢に関わらず、すべての人が同じように情報にアクセスし、コミュニケーションを取り、サービスを利用できるような環境をWebに携わる皆で作っていきましょう。

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