塾、予備校、学校などの教育業界における情報セキュリティ対策

塾、予備校、学校などの教育業界における情報セキュリティ対策
2024.10.11

デジタル技術の急速な発展と普及に伴い、教育のあり方も大きく変化しています。学校や塾などの教育機関では、オンライン学習プラットフォーム、オンライン授業、学習管理システムなどのデジタルツールが日常的に使用されるようになりました。このデジタル化は、学習の効率化や個別最適化を可能にする一方で、新たな課題も浮き彫りにしています。その中でも特に重要なのが、サイバーセキュリティの問題です。
本コラムでは、教育業界におけるサイバーセキュリティの重要性、直面する脅威、そして効果的な対策について詳しく解説していきます。

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目次

デジタル化が進む教育現場

近年、教育現場のDXはEdTech(教育×テクノロジー)市場として急速に進んでいます。文部科学省の「GIGAスクール構想」により、ICTを活用した学習が日常的に行われるようになっています。従来の黒板とチョークに代わり、インタラクティブホワイトボードやタブレット端末が教室に導入され、学習管理システム(LMS)を通じた課題の提出や成績管理が一般的になっています。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを契機に、オンライン授業やリモート学習の重要性が飛躍的に高まりました。

塾業界では、大手教育企業がオンライン授業やAI活用の個別指導サービスを展開しています。コロナ禍を機に、多くの塾がオンライン授業を取り入れ、ハイブリッド型の学習支援が一般化しつつあります。
さらに、ブロックチェーン技術を活用した学習履歴の管理や、VR/ARを用いた体験型学習など、先進的な技術の導入も始まっています。 このように、日本の教育業界のDXは、政府の施策や民間企業の取り組みにより着実に進展しており、今後さらなる発展が期待されています。

教育業界特有のリスク

急速にDXが進む中、教育機関はセキュリティの課題に直面しています。教育業界におけるサイバーセキュリティリスクは、その独特な環境と情報の性質から、他の産業とは大きく異なる様相を呈しています。

利用者の多様性

最も特徴的なことは、教育機関のシステムやネットワークを利用するユーザーの多様性です。一般的な企業では従業員が主なユーザーですが、学校や塾では教職員だけでなく、生徒も日常的にこれらのリソースを直接利用します。これは、顧客がサービス提供側のシステムを直接操作するような状況に似ていますが、教育現場ではこれが常態化しています。
さらに重要なのは、これらのユーザーの多くが未成年者であるという点です。若年層は好奇心旺盛で新しい技術に順応が早い反面、サイバーセキュリティに関する十分なリテラシーを持ち合わせていない場合が多々あります。意図せずにマルウェアをダウンロードしたり、フィッシング攻撃に騙されたり、あるいは単純な過失でセキュリティ侵害を引き起こす可能性があります。

機微な個人情報

また、教育機関が取り扱う情報の特異性もあります。生徒の成績表や進路希望といった学業に関する情報は、個人の将来に直接影響を与える可能性がある極めて重要なデータです。加えて、住所や家族構成といった個人情報、さらには健康状態や経済状況など、高度に機密性の高い情報も含まれています。これらの情報が漏洩した場合、単なるプライバシー侵害にとどまらず、いじめや差別、さらには犯罪に悪用されるリスクもあります。

教育業界特有のリスクに対する対策

適切なアクセス制限

教育機関における適切なアクセス制限は、情報セキュリティの要となる重要な対策です。この制限は、単にユーザーを認証するだけでなく、各ユーザーの役割や責任に応じて適切な権限を付与する「最小権限の原則」に基づいて実施されるべきです。例えば、生徒には自身の成績や課題にのみアクセスを許可し、教職員には担当する生徒や科目に関連する情報へのアクセス権を与えます。
さらに、多要素認証の導入も効果的です。パスワードだけでなく、生体認証や一時的なセキュリティコードなど、複数の認証方法を組み合わせることで、不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。また、定期的なパスワード変更の強制や、強力なパスワードポリシーの実施も重要です。 加えて、アクセスログの監視と分析も欠かせません。異常なアクセスパターンや不審な活動を迅速に検知し、対応することで、潜在的な脅威を早期に特定し、被害を最小限に抑えることができます。また、定期的なアクセス権限の見直しと、不要になった権限の速やかな削除も重要です。これにより、長期的な視点でのセキュリティ管理が可能となります。

セキュリティ教育

教育機関におけるセキュリティ教育は、全ての利用者(生徒、教職員、管理者)を対象とした包括的な内容である必要があります。この教育は、単なる規則の伝達ではなく、情報セキュリティの重要性を理解し、日常的な行動に反映させることを目的としています。
生徒向けの教育では、年齢や理解度に応じたアプローチが必要です。例えば、低学年には簡単なゲームやアニメーションを用いてパスワードの重要性や個人情報の取り扱いについて教え、高学年にはより実践的なワークショップを通じてフィッシング詐欺の見分け方やSNSでの適切な情報共有について学んでもらいます。
教職員向けには、より高度な内容が求められます。個人情報保護法の理解、セキュリティインシデントの検知と報告方法、安全なリモートアクセスの実践などが含まれます。また、新しい脅威や技術に関する定期的教育も重要です。
さらに、実践的な訓練も効果的です。模擬フィッシングメールを送信し、それに対する反応を分析するなど、実際の脅威に近い状況での対応力を養うことができます。また、セキュリティクイズや競争形式のイベントを開催することで、楽しみながら学ぶ機会を提供し、継続的な意識向上を図ることができます。

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データの暗号化

教育機関におけるデータの暗号化は、機密情報を保護する上で不可欠な対策です。暗号化は、データが保存されている状態(保存時暗号化)と、データが送受信される過程(通信時暗号化)の両方で実施される必要があります。 保存時暗号化では、ハードディスクやサーバー上のデータを暗号化することで、物理的な盗難や不正アクセスからデータを守ります。特に、生徒の成績や個人情報などの機密性の高いデータには、強力な暗号化アルゴリズムを使用し、複数の階層で暗号化を施すことが望ましいです。

データの分離

教育機関におけるデータの分離は、情報の機密性と完全性を確保するための重要な戦略です。この手法は、異なる種類や重要度のデータを物理的または論理的に分離することで、全体的なセキュリティを向上させます。
まず、最も機密性の高いデータ(例:生徒の成績や個人情報)は、一般的な業務データとは完全に分離された専用のサーバーやストレージに保管します。これらのシステムへのアクセスには、追加の認証や承認プロセスを要求し、アクセス権限を厳格に管理します。
次に、データの分類とラベリングを行います。各データに機密レベルを設定し、それに応じたアクセス制御を実施します。例えば、「公開可」「内部使用限定」「極秘」などのラベルを付け、それぞれに適した保護措置を講じます。

教育業界で参考となるツール

学校や塾が情報セキュリティの参考とすべきツールがあります。学校向けに特化したものや、より一般的な情報セキュリティガイドラインがあります。

文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」

このガイドラインは、学校向けに策定されたもので、情報セキュリティ対策の基本的な考え方や具体的な対策例を提供しています。教育現場の特性を考慮した内容となっており、多くの学校で参考にされています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1397369.htm

IPA(情報処理推進機構)「情報セキュリティ教材」

・5分でできる!情報セキュリティポイント学習(企業向け・学校指導者向け)
・一般初心者向け情報セキュリティ教材(学校向け・一般向け)
・今こそ考えよう 情報モラルセキュリティ(学校向け・一般向け)。
など、初心者向けの学習資料を提供しています。パワーポイント版には口頭での説明文章もついていますので、すぐに利用できます。
https://www.ipa.go.jp/security/sec-tools/index.html

一般社団法人日本教育情報化振興会「ICT教育環境整備ハンドブック」

教育ICT環境の整備に伴う情報セキュリティ対策について、具体的な指針を提供しています。特に、GIGAスクール構想に対応した内容が含まれています。
https://www.japet.or.jp/publications/ict-handbook-2024/

まとめ

教育業界におけるサイバーセキュリティの重要性は、今後ますます高まっていきます。デジタル技術が学びの可能性を広げる一方で、それに伴うリスクも増大しています。教育機関は、先進的なセキュリティ対策を講じるだけでなく、サイバーセキュリティ文化を醸成し、次世代のデジタル市民を育成する責任も担っています。
技術の進化、法規制の変化、新たな脅威の出現など、サイバーセキュリティの領域は常に変化しています。そのため、教育機関は柔軟かつ先見的なアプローチを取り、継続的な学習と適応を行う必要があります。
教育業界におけるサイバーセキュリティは、単なる技術的課題ではなく、教育の質と信頼性、そして生徒たちの未来を守るための重要な要素です。デジタル時代の教育において、安全で信頼できる学習環境を提供することは、教育機関の最も重要な責務の一つとなっています。

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